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【F1LIFE新書】2012年ブラジルGP 小林可夢偉『思いを乗せ、夢に向かって』


2012-11-28 0:05


 目指すべき未来はそこに。

 レースに意味があるとしたら、それは勝つこと。
 僕は日本人として、勝てることを証明したい。


 サンパウロの真っ青な空を見上げると、よくこんなにも遠くまでやって来たものだと感じる。南半球は夏を迎え、街路に立つ木々は深々と緑づく。
 オースティンを月曜の午後に発って、シカゴを経由しサンパウロへ。
 景気が上向き数年前ほどではなくなったとは言え、それでもまだこの街の治安は最高とは言えない。グランプリ関係者を標的とした強盗も、毎年のように報告される。火曜日の朝に到着しても、ホテルから出歩くことなどできない。
「腕時計、外した方がいいですよ。移動中とか、ホンマにリアルに恐いもん。僕も時計はサーキットでしか着けへんもん。これはチームとの契約上、しょうがないからね。でも、さすがにサーキットでは腕ごと持って行かれへんでしょ?(苦笑)」
 狭く雑然とした古くさいパドックの片隅で、降り注ぐ強い陽射しに眩しそうな顔をしながら、可夢偉は言った。
 可夢偉が急きょデビューすることになったあの2009年のブラジルでも、トヨタF1チームのスタッフが乗る移動車が拳銃を持った強盗団に襲われたことがあった。
 あれからもう3年。
 可夢偉は昔をしみじみと振り返ったりするような男ではない。しかし、3月に始まった20戦という長いシーズンが終わろうとしていることは事実として重くのしかかってくる。
 最後の週末を前にそんなことを一人思っているところに、チーム代表でありザウバー・モータースポーツ社のCEOでもあるモニシャ・カルテンボーンから話があると言われた。
「カムイ、本当にごめんなさい。来年のドライバーラインナップが決まったわ」
 いつかその言葉を聞かねばならないことは、可夢偉も分かっていた。だから、そこに望みを掛けたりはしていなかった。
 それよりもむしろ、300人の従業員を養っていかなければならないチームの長として、思い悩むモニシャのことを気遣っていた。
「そうなんだ、良かったね」
 可夢偉はそう言って、モニシャに微笑みかけた。もうこれ以上あなたが苦しむ必要はない、僕に対して責任を感じる必要もない、そう言いたくて。それがモニシャに対する、可夢偉のせめてもの思いやりの言葉だった。
 そして今シーズン最後の週末が始まる木曜日、可夢偉はひとつのウェブページを立ち上げた。『KAMUI SUPPORT』という名のそれは、これまで可夢偉の元に届いていたファンからの「資金支援をしたい」という声に応える形でずっと準備を進めてきたものだった。
 分かりづらい税務面での確認作業や、実際に運営していく上での作業負担とそれを担うマンパワー、自分たちにやれることとやれないこと、そして何より、応援してくれるファンの人たちに対する責任。このプロジェクトのスタートに至るまでには、途方もない時間我必要だった。
 準備には1カ月もの時間がかかったが、それさえもなんとかこの最終戦ブラジルGPまでに間に合わせたというのが実状だった。
「今回が最終戦だけに、(シーズンが終わると)ニュースが広まらなくなっちゃうじゃないですか。そこがちょっと問題なんで、だから無理矢理ギリギリで最終戦に間に合わせたくらいの勢いですからね。じゃないとニュースにならないから意味ないなと思って」
 そもそも可夢偉は、プロのレーシングドライバーとは能力を評価されてそれに見合った対価を得た上でマシンに乗るべきものと考えていた。そして事実、2010年からずっとF1の世界で数少ないペイドドライバーとしての地位を確保してきた。

こちらに続く)

購入はこちら『F1LIFE』ストアにて。
https://www.f1-life.net/store/f1lb-0040.html














【新書】2012年ブラジルGP 小林可夢偉




著者:
米家峰起
発行日:
2012年11月27日
ページ数:
27
データ形式:
PDF(PC、iPad/iPhone、Android対応)
データサイズ:
6.7MB
ダウンロード価格:
210円(税込)





ダウンロード価格(税込):¥210円







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