「王座獲得の可能性、それは去年よりも大きい。」 マシンを降り、彼は何度も何度も人差し指を突き上げ、力強く振りかざして見せた。何戦もの間、溜まりに溜まってきた鬱憤と焦りから、ようやく解き放たれた瞬間。その開放感と歓喜が、爆発した。
バレンシアでは、初日から彼の純粋なまでの速さが遺憾なく発揮された。見る者を心地良く速さ。混じり気のない、ただ速く走りたいという気持ち。他の誰とも違う、セバスチャン・フェッテルだけが持つ独特の走りだ。
レース終了から1時間半ほどが過ぎ、時計の針が17時を回っても、バレンシアの太陽は空高くからハーバー沿いのサーキットに照りつけていた。エナジーステーションの前に少しずつできはじめたチームスタッフたちの輪に、セバスチャンが小走りに駆け寄っていった。歓喜の声が上がり、気の早い一部のスタッフがシャンパンの栓を抜いて彼に浴びせかける。号令とともに全員が腕を突き上げ、それと同時にあちこちでシャンパンが飛び散った。
トルコGPの一件以来、やや硬い表情を見せることの多くなったセバスチャンだが、バレンシアでようやく晴れ晴れとした表情を見せた。
――ヨーロッパGPでは、ようやく今季2勝目を挙げることができましたね。「本当に、何度目の正直だろうって感じだよね。ここまでは本当に楽じゃなかったけど、過ぎたことは悔やんでもしょうがないからね。こうして優勝という場所に帰ってこられて良かったよ。
それにしても、僕らはバレンシアではそんなに強くないだろうと思っていたんだ。でもレースでは後続を引き離してギャップを広げることができたし、そのままマシンをゴールまで持ち帰ることもできた。でも、勝つのはそんなに簡単じゃなかったよ」
――楽勝のように見えましたが?「(ウェバーの事故後に)セーフティカーボードが見えた時、僕はすでにホームストレートを走っていたんだ。その瞬間、後ろの人たちはここでセーフティカーに捕まる前にピットストップして得をするな、僕にとっては厳しい展開になるなって思ったんだ。でも僕らは状況に上手く対処することができたと思うよ」
――でも、レース再開後は楽勝だったのでは?「セーフティカーがコースを離れる時、僕は最終コーナーでなるべくブレーキを遅らせようとして右フロントタイヤを激しくロックアップさせてしまって、少しフラットスポットを作ってしまったんだ。セーフティカーの後ろを走っているとタイヤに熱を入れるのがとても難しいからね。思ったよりも熱が入っていなかったんだ。
その後はなるべくハードにプッシュしないようにして、ルイス(・ハミルトン)がドライブスルーペナルティーを受けたっていうメッセージをもらってからは、さらに少しペースを落としたよ。大きな問題にはならなかった」
――スタート直後のルイス・ハミルトンとの攻防については?「出だしの加速はとても良かったんだ。で、ミラーを見たらマークとルイスが戦っていた。すぐにルイスは前に出たんだと思うけど、ターン2で彼がインに入ってきた時にはどうしようもなかった。あそこで馬鹿なことをしてもしょうがないしね。できるだけ彼にスペースを残すしかなかったよ。一度ブレーキングに入ってしまったら、あとは反応するのは難しいものなんだ。
すごくギリギリだった。思った以上にギリギリだった。僕はあれ以上左に行くことはできなかったし、実際に僕らは接触したと思う。衝撃を感じたんだ。どう当たったのかは分からなかったけど、彼のフロントウイングが僕のリアタイヤに当たったんじゃないかと思って、パンクするんじゃないかとヒヤヒヤしたよ。でも数コーナー走ってみてクルマに問題はなさそうだっていうことが分かったから、僕はすごくラッキーだったね。レースが終わって見てみたら、右側のフロアがダメージを負っていたよ。おそらく彼は(ターン2内側の)縁石をヒットして、マシンが跳ねてしまって、どうすることできなかったんだろうね」
――ヨーロッパGPから待望のFダクトが導入されました。「ヨーロッパGPもチームスタッフにとってはまた大変な週末だったんだ。Fダクトを実戦投入することになったから、金曜日の夜はその作業で1時間か2時間しか眠れなかったんだ。彼らのためにも、ここで勝ててたくさんポイントを獲れて良かったよ。すごく頭の良いアイディアだし、これを上手く使いこなせれば得られるものはすごく大きい」
――Fダクトの効果はどのくらいなんですか?「まだ100%完璧じゃないんだ。金曜日よりは良くなったけどね。だから正確なことを言うのは難しいし、詳しくは教えられないよ。ただ、マシンに搭載しているということは、アドバンテージがあると信じているからだよ。ライバルの走りを見る限り、きちんとセッティングして完璧に作動させることができればラップあたり0.4〜0.5秒くらいに匹敵するんじゃないかな。現時点では、僕らはまだそのレベルには達していないけどね」
――Fダクトの操作は難しくないですか?「使い始めればすぐに・・・(続く)
(text by Mineoki Yoneya / photographs by Wri2, Red Bull Racing)
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【特別寄稿】『セバスチャン・フェッテル、純然たる速さの復活。』 ● 実は
薄氷を踏む思いだったヨーロッパGPの裏側
● レッドブルの
Fダクト、その操作方法、効果とは?
● カナダでの
敗北の理由● レッドブル
同士討ち、その後のウェバーとの関係
●
「チャンピオン獲得の可能性は、去年よりも大きい」この記事の詳細はこちら商品の詳細著者:米家 峰起
レース:2010年第9戦ヨーロッパGP
ページ数:37
ファイルサイズ:21.6MB
商品番号:ITEM2010-0117
価格:150円(税込)
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