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2010年第16戦日本GP、『重圧の先に掴み取った、興奮と歓喜の夕焼け』


2010-10-11 21:57


 大興奮のレースを終えて、10万人の大観衆に迎えられた可夢偉は満面の笑顔を見せた。ピットレーンからホームストレートへ出てグランドスタンドに手を振り、この週末の熱い応援にお礼を言った。

 ピーッとガレージに戻ると、今度はチームの面々が待ち受け、いくつもの笑顔に揉みくちゃにされながら、次々ときつく抱き合う。いつもなら「こんなもんで喜んでるわけにはいかへん」と、入賞してもあまり感情を爆発させることのない可夢偉だが、この日だけは違った。笑顔が弾け、身も心も軽い。ずっと背負ってきた重荷から、ようやく解放された歓びと安堵に満ちあふれていた。


「うわ、木曜日からすごいなぁ。カツアゲでもされそうな雰囲気やん」

 閑散としたBMWザウバーのホスピタリティエリアの中で、大勢のメディアが何重にもテーブルを取り囲んで待ち受けていたのを見て、可夢偉はそう言って笑った。この鈴鹿では、普段のレースに帯同する面々だけでなく、一般の新聞や雑誌など馴染みのない顔ぶれにも囲まれる。レース本番に向けて、いつもとは違う雰囲気になる。母国レースとは、そういうものだ。

 レース前の可夢偉は、「プレッシャーはない」と言うが、それに流されないようにガードを高くしているように感じられた。心のシャッターが閉じている。「普段通り」という言葉とは裏腹に、可夢偉の態度はいつもとは少し違った。報道陣の質問には答えるが、正面から質問とは向き合っておらず、はぐらかすように答える。ジョークで交わそうとする。

「まぁ期待は感じるけど、それが結果に繋がるかどうかは僕次第やから、あんまり気にしないです。結果を残さないとね。いや、プレッシャーは全然。いま頭の中では『今夜なに食おうかな』って考えてるだけやから(笑)」

 良いレースをしたいのは当たり前。だが、そう思ったからといって速くなるわけではない。言われるまでもなく、可夢偉はいつだって限界ギリギリの速さを引き出して走っているのだから。

 自分がやるべきなのは、いつもと同じように全力を尽くし、それを結果に結びつけること。それ以外のことを意識すれば、足下が浮つき、いつもと同じようにレースができなくなるかもしれない。だから可夢偉はシャッターを閉めた。

「(母国レースであることや周囲の期待を)変に意識するじゃないですか? みんなが意識させようとするし。てゆうか、みんなそういう風に僕に言って欲しいんですよね。でもその罠にはまったら僕らは終わりやから、残念ながら(その期待には応えない)。意識的に、意識しないようにしようとしてる。いつものレース以上に、普通にしてみようかな、って。だから、いつもやったらレース前は身体に悪いもんはやめとくけど、今日は敢えてビールを飲んで寝ようかな、と(笑)」

 意識しないように心がけていること自体が、いつものレース週末とは違う。そのことに、可夢偉は気付いていたのだろうか。
続く

(text by Mineoki Yoneya / photographs by ZEROBORDER)



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商品の詳細
 ●著者(発行元):Remixpoint Inc. / Codeximages
 ●レース:2010年第16戦日本GP
 ●ページ数:48
 ●ファイルサイズ:22.3MB

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『F1SCENE DIGITAL』は、F1ドキュメンタリー写真集『F1SCENE』が贈る、レースごとの写真集です。vol.16は、世界に誇る舞台、鈴鹿サーキットで行なわれた日本GP。レッドブルの独走劇、豪雨の土曜日、そして小林可夢偉の快走を描きます。叙情詩的なレースドキュメント、小林可夢偉の連載『夢に向かって』も収録。レースリザルトも掲載し、レース資料としても役立ちます。

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