可夢偉、苦難の時。
トラブル、セットアップ失敗、そしてまたトラブル。
不運に不運が続く、開幕戦とは真逆の週末。
さらにはチームメイトが先んじ来て初表彰台を獲得。
マレーシアは可夢偉にとって苦悩の週末になった。
その真実を描く。「牧場に行って、牛を見てきました。パースってメチャクチャ太陽が強いんです。ヤバいですよ」
そう言って可夢偉は、日に焼けた顔を歪ませた。
メルボルンの開幕戦からわずか4日、グランプリサーカスはもうマレーシアに移動し次の週末を迎えようとしていた。このクアラルンプールにも、強い陽射しが降り注いでいる。
「開幕戦の後の気分? 美味しい肉が見つかって良かったなぁって(笑)。でも3日間とも移動ばっかりで大変でしたよ」
可夢偉は開幕戦の成果に、確かな手応えを感じていた。
それは最終周の幸運による6位という結果にではなく、C31というマシンが現状で持っているポテンシャルに対してだ。
だからこそ、今の気持ちを聞かれても答えをはぐらかした。
手負いのレースではなく100%の実力を出し切ることができたならば、期待以上の結果がついてきそうな予感があった。だからこそ、その数字を声にはしたくなかった。声にすれば、それは現実のものとして目の前に立ちはだかってしまうのだから。
「まぁでも、開幕戦はポイントを獲るのが一番大事やったから、結果ラッキーであの順位やったけど、状況を見てたら9位のままでも充分やったと思いますね」
そう言う可夢偉にしつこく食い下がると、「今回も目標はポイントですね」と言った。
もっと上を目指す気はないのか? そう問い掛けると、「そんなに欲張んないです」といって悪戯っぽく笑った。
そして最後に可夢偉はこう付け加えた。
「予選をきちんとまとめて、スムーズに力を出し切りたいですね」
セパンの空は変わりやすく、さっきまで強い太陽が顔を出していたかと思えば、もう別の方角からは黒い雲が上ってくる。
昼過ぎの雨だけでは飽き足らず、午後3時を前に再びの豪雨。
可夢偉の期待とは裏腹に、今年のセパンには荒れ模様の予感が漂っていた。
(続く)
【F1LIFE新書】2012年マレーシアGP 小林可夢偉 土砂降りの雨に打たれて。著者:米家峰起
発行日:2012年3月27日
ページ数:19
データ形式:PDF(PC、iPad/iPhone、Android対応)
データサイズ:5.5MB
ダウンロード価格:210円(税込)
(販売期間:2012年4月12日まで)
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