ページの先頭です。本文を読み飛ばして、このサイトのメニューなどを読む

 

【F1LIFE新書】2012年アブダビGP 小林可夢偉『信じることの強さ』


2012-11-7 12:09

 根拠なんて要らない。

 自分を信じて突き進むだけ。
 でなきゃ、運命は切り開けないから。


 砂漠に囲まれた白亜の大地には、真っ青な空から容赦なく太陽が照りつけていた。
 アブダビの陽射しは熱い。例年よりも熱く肌を灼き付けるように感じるのは、気のせいだろうか。前夜にドバイ国際空港へ降り立った時には気付かなかったが、インドGPの後の2日間を過ごしたバンコクなどよりもよほど、こちらの方が暑かった。
 アブダビは、デビュー2戦目にして初めてポイントを獲得した場所。あれがザウバーのシート獲得へと、そして一度は失われかけた可夢偉の人生が変わる大きな原動力になったことは間違いなかった。
「アブダビには良い思い出があるし、僕にとってはゲンの良いサーキットですね。もちろんあの時とはクルマも違うしアプローチの仕方も違うけど、過去2年のザウバーでのレースを振り返っても、今週末に向けてはポジティブな印象を持っていますね」
 木曜のFIA公式会見には、チャンピオン争いとは関係のない5人が召喚された。それは無言のうちに、来季のシートを話題にしろと促しているような面々だった。
 当然、可夢偉にもその質問が投じられる。
 可夢偉は司会者がその言葉を発すると同時にニヤリと笑い、他メンバーと同じように答えた。
「みんなと同じで、来年のシート獲得に向けて頑張らないといけない状況ではあるんですが、F1に残る自信はすごくありますよ。残り3戦に集中しないといけないけど、残りの空きシートはそんなに多くないし、かなり不透明な状況なんで、レースで結果を残すことだけじゃなく交渉にも力を入れていかないといけませんね。それが今のチームなのか他のチームなのかは分かりませんけど」
 トヨタの撤退が決定的となっていた2009年、可夢偉は突然与えられたたった2戦だけのチャンスで、今あるこの未来を掴み取った。今求められているのも、同じように僅かなチャンスを最大限の結果に変えることだ。
「もちろん、3年前と同じようにチャンスはあると思ってますよ。でも今年はちょっと違うフィーリングなんです。あの時はトヨタがF1から撤退するとは知らなかったし、翌年にトヨタで乗るために良い結果を出そうと頑張っただけでしたから。でも今年はもうそんなに空きシートがないし、結果を出すだけじゃなくてチームと交渉したりいろんなことをやらないといけないから。とにかく早く動かないといけませんからね」
 だが、可夢偉はF1残留の自信があると断言した。
 その自信の根拠を問われた可夢偉は、こう答えた。
「自信の根拠は、”フィーリング”です。上手く説明できれば良いんですけど、ただそれだけです(笑)」
 もちろん、裏側では言葉にできないいろんな動きがある。だからこそ、可夢偉は自信を断言できる。
 だが、それを差し置いても、可夢偉は自信を断言する男だろう。
 なぜなら、夢に向かって前に進むためには、自信が必要だと信じているからだ。
「女の子を落としに行く時、どうやって行きます? フィーリングでしょ? それと一緒ですよ(笑)。そこに理由はないでしょ? 僕はフィーリングで生きてるんで。『オレ、多分無理だよ〜』なんて言うてたら、誰も『アイツのためになんかやったろか』って思ってくれないでしょ?」
 その自信が、可夢偉の人生を前へと進めてきた。
 この世界に飛び込んだのも、F1のシートを獲得したのも、そしてこの3年間を生き抜いてきたのも。
 夢へと突き進む信念が、運命を手繰り寄せてきた。
 もっとも当の可夢偉は、アブダビにやってきたからといってあの3年前のことに思いを馳せたりはしないだろうが……。


こちらに続く)


【F1LIFE新書】2012年アブダビGP 小林可夢偉『信じることの強さ』

著者:米家峰起
発行日:2012年11月7日
ページ数:25
データ形式:PDF(PC、iPad/iPhone、Android対応)
データサイズ:6.5MB
ダウンロード価格:210円(税込)
(販売期間:2012年11月21日まで)

購入はこちら『F1LIFE』ストアにて。
https://www.f1-life.net/store/f1lb-0036.html

ページの終端です。ページの先頭に戻る