ヘレス合同テストの2日目、自身のメルセデスでのテスト初日に大きなクラッシュを喫したルイス・ハミルトンだが、彼の驚くべきクラッシュ技術が明らかになった。
まず、わざと真っ直ぐ正面からタイヤバリアにクラッシュさせたという点。リアブレーキが壊れコースを外れると分かった瞬間、ハミルトンはステアリングを切ることなく、マシンの向きを変えないようにして真っ直ぐに突っ込ませた。
「サイドから当たるとマシンのダメージが大きくなるから、真っ直ぐ当てたんだ。そうすればダメージはノーズだけで済むからね」
ハミルトンは涼しい顔で当たり前の様に淡々とそう言ってのけた。
サイドからクラッシュするとコクピット脇から筒状に突き出たクラッシャブルストラクチャーが壊れる可能性がある。そうすると、そのモノコックはもう使えない。スペアモノコックも完成していないこの時期にそんなクラッシュをしてしまうと、残り2日間のテストはキャンセルとなり、開幕までのテストスケジュールにも大きな影響を及ぼしてしまう。メルセデスに移籍して、まずは慣れることが第一であり少しでも多く走りたいハミルトンだけに、それは極めて重要なことだ。
実際、クラッシュしたハミルトンのマシンはノーズだけがつぶれ、モノコックは無事で翌日から150周近い走り込みをすることができた。まさに動物的直感だ。この瞬時のハミルトンの判断の凄さに、チーム関係者もその驚異的な能力を痛感したに違いない。
さらにもう1点、ハミルトンの驚くべきクラッシュ技術が明らかになった。通常、クラッシュするとなるとドライバーはステアリングから両腕を離して衝撃に備える。でなければ、フロントタイヤの動きをモロに受けて暴れるステアリングによって手首を骨折する可能性すらあるからだ。
「いや、僕はいつもステアリングは握ったままなんだ。離すというドライバーがいるのも知っているけど、僕のスタイルは"こう"なんだ」
と言ってハミルトンはステアリングを真っ直ぐ握る格好をする。そしてその理由がまた凄い。
「だって、いつ突然クルマの向きを変えなきゃいけなくなるか分からないじゃない?」
そう、彼はクルマがどんな状態であろうとギリギリまでコントロールしているのだ。
彼が「2007年のニュルのクラッシュも凄かったけど、あの時もそうだったよ」と言うので、その時の映像をチェックしてみたところ、実際にその通りだった。ブレーキカバーの破損で右フロントタイヤがバーストし、グラベルで跳ねてかなりの高速でタイヤバリアにクラッシュしたにも関わらず、彼はステアリングを握ったままだった。
ドライビング能力という点では極めて高い評価を得ているハミルトンだが、こうした事実からもその理由がお分かり頂けるのではないだろうか。
(text by Mineoki YONEYA / photo by Wri2)