今季からインフィニティがレッドブルのタイトルスポンサーとなった。両者は単なるスポンサーではなく、技術提携も含めた契約だ。
言うまでもなくインフィニティは日本の日産自動車が海外で展開している高級車ブランドだ。レッドブルにエンジン供給するルノーとは、ルノー-日産アライアンスで同じグループ企業でもあるだけに、チームとの連携が期待される。クリスチャン・ホーナーはこう語る。
「インフィニティはルノー-日産アライアンスの一部だ。インフィニティと我々の関係は主にミルトンキーンズのエンジニアとの提携であり、インフィニティのR&D部門に関係したものが主だったものになる。日産グループの一部であるインフィニティのような自動車会社は、将来に向けてR&Dに大いに先行投資を行なっているからね」
具体的には、1.6リッター・ターボエンジン化と同時にエネルギー回生機構が大幅増量されるため、バッテリーなどF1チームにとっては弱点とも言える分野の技術が欲しいという。
「我々としては2014年の大型レギュレーション変更に向けて彼らと提携することには大きな意味がある。特にバッテリーのテクノロジーやビークルダイナミクスといった分野は、我々がまだスペシャリストになっているとは言えない分野だけに、非常に興味深い。非常にエキサイティングな提携だと言えるだろう」
では、レッドブルに日本の企業、日本の技術が参画していると言って良いのだろうか。しかし、これがなんとも微妙で不思議な状態なのだ。
そもそも、レッドブルと契約を結んでいるのは日産本社ではなく香港にあるインフィニティ本社であり、実体はイギリスのインフィニティUKだ。F1に関する活動について、2011年のレッドブルとの契約以来、日産本社は全くのノータッチで関知しないというスタンスを貫いている。
レッドブルとの技術提携は、イギリスにあるテクノロジーセンターが主体となって進められる。インフィニティのアンドレア・シーベル(インフィニティF1グローバルディレクター)は語る。
「インフィニティのエンジニアリングと開発のほとんどは日本で行なわれている。しかしクルマの製造はイギリスで行なっている。ミルトンキーンズから30分のところにあるクランフィールドには(日産の)テクニカルセンターがある。すでに裏側では大きな変化が始まっており、これからさらにその成果が表われてくるだろう」
2014年のレッドブルRB10の開発に、日本から蓄積されたインフィニティの技術が活用されることは間違いない。しかし、それが当の日本側のあずかり知らぬところで行なわれてしまうことは残念だ。
2012年で年間3億3900万ドルという広告宣伝効果も、日産本社の利益やブランドイメージ向上に役立つことはほとんどない。せっかく自分たちの技術がF1で活用されているというのに、その事実がいかされず、日本のファンに知られることもなく無視されていていいのだろうか。
シーベルは、2014年用ルノー・エンジンが現行V8エンジンよりもさらにルノー-日産アライアンスの技術に基づいたエンジンになることを認め、そのデビュー時にインフィニティ・エンジンの名前でレッドブルのマシンに搭載される可能性を否定していない。
「2011年にレッドブルとの提携を開始した時点では、エンジンにバッジを付けることは考慮していなかった。我々は嘘偽りのないブランドであり、ステッカーを貼り替えて昨日までルノー・エンジンだったものを今日からインフィニティ・エンジンにしたところで、世間に対するアピールという点では意味がないからだ。しかし次のV6エンジンはルノー-ニッサンの技術に根ざしたものになるし、その点は誇りに思うことを否定しない」
日本のF1に対するコミットメントが低下している時期だけに、こうした目に見える形での参画、それもトップチームの屋台骨を支えるような技術供与には、もっと多くの世間の目が向けられても良いはずだ。
(text by Mineoki YONEYA / photo by Wri2)