オーストリア国歌に続き、鳴り響くサンバのリズム。銀の紙吹雪が風に乗って舞ってくる表彰台の裏で、マシンを降りてすぐTVカメラに囲まれたルイス・ハミルトンは、最初からこの結果を予想していたような、どこかサバサバした表情を見せた。
シーズン中盤にはレッドブルのチーム内騒動に乗じて勝利を重ねたマクラーレンも、後半戦は完全にレッドブルとフェラーリの後塵を拝した。ここインテルラゴスでも、マシンの差は明らかだった。
ポイントリーダーとの差は24点となり、彼のタイトルの可能性は実質的にここで潰えた。
レッドブルの2台は、驚異的な速さを誇った。雨の予選でポールポジションを射止めてしまったニコ・ヒュルケンベルグを瞬く間に料理すると、あとはペースを抑え、後方との差を見ながらクルージング走行を続けるだけで良かった。通常10周から15周と言われるスーパーソフトの寿命が、25周経っても一向に衰えなかったのがその証左だった。
ただし、レースをリードするのはセバスチャン・フェッテル。二人の順位を入れ替え、ランキングで上位に位置するマーク・ウェバーにポイントを集中させる戦略を採れば、リーダーのフェルナンド・アロンソとの差は1ポイントになる。
だがレッドブルは、その決断を下すことはしなかった。
「二人ともにタイトル獲得の現実的なチャンスがある。だから公平に戦わせる」
それがレッドブルの主張だ。
周囲からはフェッテル優遇と見られ、その姿勢を非難する声も多く上がったが、彼らは意に介さない。チーム代表のクリスチャン・ホーナーは「誰がなんと言おうが、それはレッドブルの立ち位置から判断した上でのことではない。我々はすべてを理解した上でこの決断を下したんだ。だからそうした声が我々に影響を与えることはないよ」と語る。だがウェバーは、「技術的サポートについては問題ないが、気持ち的にはそれは明らかだろう?」とフェッテル偏向を肯定している。
残り少ないマイレージを考え、エンジンを労りながら小刻みに使ったフェルナンド・アロンソは、序盤にハミルトンとヒュルケンベルグを料理した後は、淡々としたレースで3位をものにした。それは単なる表彰台というだけでなく、タイトル争いにおいて8ポイント差という圧倒的な優位を持って最終戦に臨むということを意味する。
1位アロンソ、2位ウェバー8点差、3位フェッテル16点差。
仮にアブダビでレッドブルの2台が圧倒的な速さを発揮したとしても、アロンソが3位にいれば、ウェバーは2位ではタイトルを獲得することはできない。それはフェッテルも同じだ。しかし、フェッテルがウェバーに勝利を譲れば、タイトルはウェバーのものになる。そうなった時、果たしてレッドブルは順位の入れ替えを指示するのだろうか? そしてフェッテルは道を譲るのだろうか(
続く)
(text by Mineoki Yoneya / photographs by ZEROBORDER)
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